渡辺信一郎×本広克行、超ロング対談

劇場版「カウボーイビバップ 天国の扉」
スペシャル企画 #01 「渡辺信一郎×本広克行、超ロング対談!の巻」より
(司会進行=佐藤大・古川耕 文責=古川耕)
(時期:2001年中旬頃)

−− では、ダラダラ始めたいと思います。まず、お互いの作品の印象から伺いたいのですが。

渡辺 「僕ですね、TVをまったく見ないんで、本広監督のTVの作品はまったく見てないんですよ。で、映画だけ見せて頂きまして。『踊る大捜査線 THE MOVIE』(以下『大捜査線』)を初めて見たんですけど、周りでやっぱり評判になっていた映画で、しかもTVシリーズから映画化されたもの、ということで、うち(ビバップ)も同じだしちょうどいいや、と思って。どういうものか見よう、と。で、TVを全然知らなくても楽しめた。それで、TVで明かされなかった謎とか、そういうのを映画で明かしたり、TVの決着を映画でつけるのはやめようと。そういう意味でも参考になった作品です」

−− 本広さんのほうは?

本広 「僕はDVD全部持ってます」

渡辺 「すいません。恐縮です」

本広 「1本買ってみて、『おもしろいなぁ』と思って、それで……あの、音楽の使い方が抜群に良くて感動して。最初は監督よりも作曲家、菅野さんに興味が行って。『女性なんだ!』と思って感動して、そうしたら『大捜査線』の曲を作ってくれていた松本さんという作曲家と菅野さんは、大学の先輩後輩にあたる人だということも分かって、松本さんとそういう話もして。それでも……監督が見えないんですよ」

−− ?

本広 「ネットで検索しても写真がどこにもないし。それで余計、ビバップのイメージがこう、独特の世界になって。誰が作ったんだろう? とか、そういうのが見えにくくて、ああうまいつくりかたされてるなぁと思って……周りからは色んな話聞くんですよ。『渡辺さんは絵コンテを描けない人だ』とか」

一同 「ええっ!?」

本広 「そういう噂を聞いたことあるんですけど、本当なんですか?」

渡辺 「……(苦笑)……」

本広 「『絵コンテ描けない監督さんもいるから、本広君もアニメやってみなよ』とか言われたことがあるんですけど……(笑)」

渡辺 「……あのですね、当然絵コンテがないとアニメはつくれませんから、絵コンテは描けます。ただアニメーターが描くようなちゃんとした絵は描けない、ということですね」

本広 「そうじゃないとおかしいですよねぇ? 前、ニュータイプ誌の対談で、真剣に庵野秀明監督に『アニメのクリエイターになりたいんですけど』って相談したんですよ。『でも僕、パースも描けないんですけど』って。そうしたら、一喝されましたね。『絵が描けないと無理だよ』って(笑)。『だって他人に伝わらないもん』『そうですよねぇ〜』って」

渡辺 「でも、実写でも絵コンテ描く人いるでしょう?」

本広 「実写は描けない人がほとんどだと思いますけど……岩井俊二さんとか矢口(史靖)君とかうまいですよね。僕の場合は『字コンテ』と言ってですね、字だけで『ズーム』『アップ』とか書いてあって、あとはカメラマン撮ってねって(笑)」

渡辺 「確かにあんまり凄い絵を描かれても困るでしょうしね」

本広 「黒沢明さんの絵コンテとか、凄いですもんね。アートで。でも実写になったらそれは素晴らしい芸術として……こないだ宮崎駿さんの絵コンテ集が出るっていうんで取材されて、それで初めて絵コンテ見たんですけど……マンガですね。あの流動感がそのまんま絵コンテになっていて。『サッサッと描いてこの程度ですよ』って言われて、『僕はもうアニメは出来ない……』って(笑)。で、渡辺監督はどうなんだろう?って。それが一番確認したかったんです」

渡辺 「宮崎さんの絵コンテは……あんなの描いてるのは日本で3人ぐらいしかいません(笑)。だいたいTVシリーズの絵コンテなんて、けっこうラフなものですから。それを見て絵描きが意図を拾っていって、絵を作っていく。それがアオリか俯瞰か全然分からないというぐらいの絵だと、『どうなのよ?』とは言われてしまいますけど。まあでも、宮崎さんみたいな絵コンテは描けませんよ、そりゃあ」

本広 「そうですか……『みんなこれくらいの絵を描くんだろうな』って思ってしまうんですよ、素人からすると」

渡辺  「要は他人に伝わりさえすればいいんですよ」

本広 「いやあ、ホッとしました。これから勉強して、パースぐらいは描けるようにします(笑)。もう本当、ダメなんですよ。再生能力がまるでなくて、見ているものを描いても全然違うものになっちゃうんです」

渡辺 「でも、それはオリジナリティじゃないですか? まんま同じだと、それはマネになっちゃうから」

−− 渡辺監督はもともと実写の道に入りたかったんですよね?

渡辺 「そうではなくて、映画がやれればどちらでもよかったんです。もともと実写もアニメも区別なく見てたんですけど、学校出て就職するときに、ちょうどその年に公開してたのが『風の谷のナウシカ』とか『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』('84年公開。監督・押井守)で、なんかアニメは好き勝手やってておもしろそうだなぁと思って」

本広 「はいはいはい」

渡辺 「一方実写を見ると、そのとき出てきた新人監督って、『助監督15年やってました!』みたいな方たちばかりで。それならアニメのほうが早く監督になれそうだなっていう(笑)」

本広 「僕はどっちかというとアニメを見ていることが多くて。で、僕もちょうど『ビューティフル・ドリーマー』を見たんですけど、同時上映で大森一樹監督の『すかんぴんウォーク』(実写)を見て、『こんなことやっていいんだ!』って感動したんですよ。それで実写に傾いたんです」

渡辺 「じゃあ、ひょっとしたら同じぐらいの歳なのかな?」

本広 「僕は'65年生まれですね」

渡辺 「僕も'65年。じゃあ同じ年に同じようなものを見て、それでどっちに行くかで別れたのかな」

本広 「あの2本立てが僕にとって決定打だったんですね(笑)」

渡辺 「実写はあまり見なかったんですか?」

本広「実写の映画……そう言われるとほとんど見てないかもしれない。アニメばっかり(笑)」

渡辺 「逆に僕はアニメをたいして見てない(笑)」

本広 「だからなんですね、『ビバップ』がいいのは。どこか、僕の中のアニメーションの法則と違うんですよ。何が違うんだろうなってずっと考えてたんですけど」

渡辺 「アニメよりも'70年代の実写映画とかの影響のほうがはるかに強いかもしれない。だから、蓄積は逆なんじゃないですか。それで反対のものをつくってるのがいいのかも。ところで、本広さんの映画って『マンガっぽい』ってよく言われますよね。それは意識してやってるんですか?」

本広 「たぶん刷り込まれてるんだと思います。『サトラレ』でも、ヘリコプターの一団が災害地に駆けつけるシーンがあるんですが、そのCGをやってくれた『ジュブナイル』の監督の山崎(貴)さんが言うには、『手前にカメラを置いてヘリが越えていくようにすれば迫力が出るし、映画っぽくなるよ』って。でも、僕はつい俯瞰で画面をつくるんですよ。『それがアニメっぽい証明だ』って山崎さんに言われて……そういえば『パトレイバー』でこんなシーンあったぞ!って(笑)。」

渡辺 「見ていて不思議だったんですけど、キャラクターがカリカチュアされている感じがありますよね? これはわざと誇張しているのか、それともこれが普通だと思っているのか、どうなのかなと思って」

本広 「ああ、最近は狙ってやってるところがありますね。でも最初はいろいろ悩んで……渋くてムードがあって、とか、そういうものをつくったほうが作家として地位が上がるというか……アーティストと呼ばれたいというのがあったんですよ」

渡辺 「呼ばれたいんですか?」

本広 「呼ばれたかったんですよ。でも『大捜査線』がヒットしてから、『いや、お客さんはこういうものを求めているんじゃ?』って思って。で、なんとかしてお客さんを呼ぶためにわかりやすく……本当はもっとムードとかを押し出していきたいというのもあるんですが、いまはそれを抑えている時期ですね」

渡辺 「ときどき、僕のアニメよりアニメっぽいと思うときがあって(笑)、これは染みついているのかどうなのかって思ってたんですけど……なるほど。でも日本映画って娯楽映画が少ないから、こういう人がいてくれないと困るなあと思うんですよね。本広さんは『職人監督です』みたいなことをおっしゃるじゃないですか。でもそれって、アーティストであることよりも大変だと思うんですよ」

本広 「(感激したように)本当……そうなんですよ。あと、自分は脚本も書けないし、絵も描けないし、カメラの機能すらよくわからない。何もできないんですよね。芝居も役者が考えてくれるし(笑)。なら、僕はSFでも恋愛でもなんでもできる監督になろう、と思って、そこから・職人監督・となるべく勉強はしていよう、と。まぁ勉強って言っても映画見るだけなんで、これはオイシイなと思ってるんですけど(笑)」

渡辺 「そうなったのは最近ですか?」

本広 「『大捜査線』以降ですね。その前までは僕……ゴダールにはまってるし、トリフォー、ヒッチコック、小津(安二郎)、溝口(健二)とひととおり押さえてるんですけど、結局は……山田洋次だなと(笑)」

渡辺 「でも、本広監督みたいなスタンスの人ってもっと評価されてもいいと思うんですよ」

−− ではここで、それぞれのエンターテイメント観みたいなのを話していただきたいんですけど。

渡辺 「いきなり難しいな…………あの、本広さんの作品を見てて、微妙に『自分と合うな』という部分と、『俺だったらこうするな』という部分があって。例えば、終わりかたがね、僕が見るといつも長く感じるんですよ。俺だったらここでやめちゃうのになって」

本広 「ああ、なるほど」

渡辺 「『サトラレ』も僕、手術が終わったところで、ここで終わるといいなって思ったら、あ、まだあるんだ、とか思って。僕としては、ここで終わったほうが娯楽としていいなって思うんですよね。でもたぶん、本広さんはこれがあってほしいと思ってるんだろうな、と思って。あれはけっこうダメ押しみたいな感じで付けてるんですか?」

本広 「そうですね……。僕も好きなのは、バシッて切ってあとは想像して下さいってほうなんですけどね」

渡辺 「でも最後、お婆ちゃんがフッと目をつぶって、カメラが下がっていって……という終わり方は、なんか俺っぽいなと思って(笑)。あと、自分のツボに『惜しい!』というところがあって……あの、最後に手術のシーンがあるじゃないですか。あそこで、知らない女の子が祈るポーズ取るじゃないですか。あれがすごくいいなと思って。そういうのが僕はツボで……泣いちゃうかもって思ったんですけど(笑)。そこで回想とか入るじゃないですか。『ああ……この回想はいらない』って(笑)」

本広 「本当、オフめオフめですよねぇ(ため息まじりに笑)。普通はあの回想シーンでグッとくるらしいのに」

渡辺 「基本的にね、これアウトローの話じゃないですか。で、そういう社会からはみ出した人が、孤独だと思っていたら、ある瞬間に突然反対になって、ある種の共感をされるというのが僕はけっこう好きで。で、『サトラレ』はすごくそれに近い!と思って。よくできてるなぁと思ったんですけど。中でも、あの女の子の祈りのポーズがよかった」

本広 「いやあ……(小声で)ちくしょう、助監督がつけた芝居だった!」

   (一同爆笑)

渡辺 「俺じゃないって?(笑)」

本広 「でも……さすが、見てるところが違うなぁ」

渡辺 「やっぱり、脇役にも気を使ってつくられてますよね。それがいいなと思うんですけど。脇役は僕も好きなんで。というか、脇役のほうが好きなぐらいで(笑)」

−− それもおふたりの共通点ですよね。

本広 「確かにビバップには印象に残ってる脇役が多いですね」

渡辺 「脇役を本当に脇役として、主人公を立てるだけとして使われているか、それともちゃんと気を使っているかで、印象が違うじゃないですか。で、脇をちゃんと扱ってる映画っていうのは印象がいいというか、見て、いい気持ちになるというか。主人公だけが生きててあとはコマになってる映画ってあまり好きじゃないんですよね。立てなきゃいけないのは分かるんですけど……でもほんの一言があるだけでも、そういうのがあるとすごくいいなって思うんですよね」

本広 「脇を膨らませたほうが、たぶん作品のグレードが上がる感じがするんですよね。イメージの問題なんですけど。でも過去の作品見てもそうだし。宮崎アニメも脇がいいですよね。僕、『カリオストロの城』が大好きで、五右衛門がクラリスに『可憐だ』っていうセリフがあるんですけど、あれ何回見ても泣くんですよ(笑)。いまだに」

渡辺 「泣くんですか?」

本広 「銭形の最後のきめゼリフとかでもいいんですけど、ほんのささいな一言とか……それはなんだろうな?って。たった一言、たった1シーン、数秒間のものなのに……。ああいうことを絶対やんなきゃいかんな、とはずーっと思ってて。『大捜査線』だと連続ドラマなんで、脇役が暴走を始めるんですよ。みなさんアドリブを入れてきて……それが当たった要因だよね、なんて言われましたけど」

渡辺 「アドリブ入れすぎるとまたそれはそれで問題なんでしょうけど(笑)」

本広 「そうですね」

渡辺 「あと、登場人物が基本的にみんないい人じゃないですか。あのへんが自分とは違うなと思って。本広さん自身、人がいいんだろうなと思って見てたんですけど。僕は本人があんまりいい人じゃないんで(笑)。悪人とか、悪いキャラ好きだし」

本広 「いや、僕も本当は……(笑)。でも実写だと、悪だけを描くというのがみんな怖いらしいんですよね。演じる人たちも『いいのかな』ってモヤモヤするみたいで。『蘇る金狼』というドラマで、いかりや長介さんを超ワルにしたんですけど……大ブーイングでしたね(笑)。やっぱり日本人はこうなんだなって。多少なりとも人間味をつくらないと」

渡辺 「そういうのは無視できないんですか?」

本広 「実写は生々しいですからね」

渡辺 「孫なんか泣きゃいいと思うんですけどね」

本広 「……悪っ!!(笑)」

渡辺 「そんなもんトラウマになりゃいいんだと思うんですけど(笑)。トラウマだって必要だと俺は思うんですけど。昔はもっとキツいものがいっぱいありましたよね」

本広 「ありましたありました」

渡辺 「いまは過保護過ぎるのでは?」

本広 「本当そうですね。きっとアメリカン・ニューシネマとか見られないですよね、最近の若者たちとか。確かに『イージーライダー』を見たあと、ショックで口聞けない自分もいたんですけど(笑)、でもそれがいい映画として記憶に残ってるわけですから。でも、それをいまやろうとすると否定に回られちゃいますけどね。『それは娯楽の精神に反してないかい?』なんて」

渡辺 「それだって娯楽ですよね」

本広 「ですよね?」

渡辺 「楽しく終わるだけが娯楽じゃないと思うし。べつにトラウマを残そうとしているわけじゃないけど」

本広 「でも、コメディの回もありますけど、ビバップって全体に死のにおいがする回が多いですよね。あ、こいつら絶対死ぬんだろうなって」

渡辺 「あ、そう思います?」

本広 「もうプンプンしますよ。だから惹かれるんですよね。なんかもう、ヤバイもの見てる感じで」

渡辺 「アニメなのに?」

本広 「いや、アニメだからですよ。逆なんですよ」

渡辺 「ああ……でも、その感想はちょっと嬉しいな。そうあってほしいなとは思っていたから。昔のTVドラマにしろ、そういうにおいはありましたよね? 『探偵物語』とかもそうですけど、なんというか……『楽しかったね』だけじゃ終わらない、ずっと心に引っかかって残って、終わったあとも考えてしまうという……それだって娯楽だと思うわけで。だから、『楽しかった』とか『泣いた』とかだけじゃないものをつくろうと思ったんですよ。そのほうが心に残るかもしれないし」

本広 「死のにおいがするからいいんですよね。深みがあるというか……人間いちばん怖いのが死だから」

渡辺 「怖いし、だからこそ見てみたいというのがありますよね。そしてやっぱり、それは排除されようとしますよね、特にTVだと。『○○殺人事件』みたいな番組だって、まったくそんなにおいはしないわけだし。でも、それをやっぱり自分はTVでやりたいんですよ。まぁ、なんとかすり抜けてやりたいとは思ってるんですけど」

本広 「僕も、娯楽なんだけど死がプンプンにおってるものに憧れるんですよ。自分の映画でも必ず死のにおいがするようにはしてるんですけど、でも……ぬるいんですね。いつの間にかできなくなってるんですよ。むずかしいですね」

渡辺 「でもやろうと思えば……」

本広 「いやあ、猛反対くらうと思いますね。アニメだったらちょっとはそういうことやっても許されるのかなぁ、なんて思いながら……」

渡辺 「それで、ちょっとアニメやりたいなぁって?」

本広 「そう、ちょっとやりたいなぁって(笑)」

渡辺 「じゃあオムニバスやりましょうか、オムニバス。本広さんがアニメやって、僕が実写やって、真ん中にCGの人をはさんで(笑)」

本広 「尺が短ければぜひ……(笑)」

渡辺 「20分ずつくらいで。でも、前から実写もアニメもごっちゃのオムニバスがあればいいと思ってたんですよね」

本広 「本当そうですよね」

−− それ、ぜひ実現させて下さいよ(笑)。

本広 「ところで映画はサラウンドにするんですか?」

渡辺 「ええ、5.1chに」

本広 「ああ、それは楽しみですね」

渡辺 「日本の映画は違うんでしたっけ?」

本広 「日本の映画はあまり5.1chになってないんですよ。『サトラレ』はデジタル・サラウンドにしたんですけど。思念波があるんで。でもやっぱりハリウッドものまでは……こないだ『キャスト・アウェイ』を見たんですけど、あれはすごかったですね。効果音の使いかたも含めて。ビバップも、かなりいけるんじゃないですか。ムードがあるから」

渡辺 「いやでも、日本にはあまりオペレーターがいないって聞いたりするんですが……(笑)。います?」

本広 「いや実はですねぇ、百瀬さんという、『サトラレ』をやってる方がいらっしゃるんですが(笑)、彼はハリウッド仕込みですよ。ちょっと感動しました。ガンダムのDVDの『めぐりあい宇宙』だけやってる人なんですが、これだけSEの付け方が違くて、ザクの出方とか立体感があるんですよ。サラウンド・ヘッドフォンで聴くと分かりますよ。いいですよ、あれ」

−− でも、メチャクチャ評判悪くなかったですか? (BGMの)「哀戦士」がいいとこで鳴ってない!って。

本広 「そう!!(笑)ジャブローに入るときの歌に感動したんだから!って言ったら、富野さんが『いやあもうね、あの曲かけるとあの映画で3回同じ曲かけることになるから、あの当時は泣く泣く主題歌をかけたんだ』と。本当はオーケストラをかけたかったらしいんですけど、それには制作費がなかったと。そういう話らしいですよ」

渡辺 「富野さんに直接聞いたんですか?」

本広 「いや、百瀬さんに言って、そこから富野さんの見解を聞いたんです。ねぇ……『めぐりあい宇宙』でもガンダムの一発の銃声からア・バオ・ア・クーの大スペクタクルが始まるっていう……あそこに歌が流れてたんですよ。それをやってなくて……。でも、音のつくりかたはすごくうまいんですよ」

渡辺 「誉めてるんだかけなしてるんだかよく分からない(笑)」

本広 「ビームライフルの音とかも、『これよくつくってんなぁ……』って。厚みがあるというか」

渡辺 「なんか、ガンダムファンの人は音を良くしたって言われても『いや、前の音のほうがいいんだ!』って言うらしいですね(笑)。『モノラルでもいいんだ』って」

本広 「そうですね……でも立体感をつくるにはいい人ですよ。ビバップの世界とかは絶対つくるのうまいんじゃないかなぁ」

−− まあでも、もう間に合わないですよね。

渡辺 「そうですね」

本広 「そういえば、信本(敬子)さんも『ビバップ』でシナリオやられてますよね」

−− あと、シリーズ構成ですね。

本広 「信本さんもテレビドラマの人ですもんね。『銭形平次』とかやられてましたよね、確か」

渡辺 「そうでしたったけ?」

本広 「確か」

渡辺 「よく知ってますね」

本広 「フジテレビのヤングシナリオ大賞の人ですよね。それで、『おもしろいの書く人いるなー』って思って」

渡辺 「あ、そうなんですか」

本広 「そう。それで最近見ないなー、と思ってたら『え、ビバップやってるの!?』って(笑)。『やっぱセリフがいいよなー』って」

渡辺 「一緒にやったことはないんですか?」

本広 「ないです。組んでみたいとはずっと思ってるんですけど。セリフ、格好いいですよね。女性が書く、男の格好いいセリフをビシバシ書くから」

−− そうなんですよ。

本広 「これは思いつかないなぁ、って」

−− そう、本当にそうですよね。俺もメチャメチャ直されてるんですよ(笑)。フェイのセリフはすごく直されて……あれは書けないっすね。

渡辺 「というか、佐藤大の書くセリフは全部佐藤大のセリフのようになってしまう(笑)」

−− よく注意されるんですよ(笑)。

渡辺 「ある意味作家性が強い(笑)」

−− そう言ってもらえると嬉しいんですけど。

渡辺 「富野(由悠季)さんも一緒だよね。富野さんのキャラのセリフはみんな富野調だよね」

−− それ俺、刷り込まれてるのかも知れないっすよ。すぐそういうセリフを書きそうになってしまう。

本広 「ああ、でも僕、富野さんとお会いできて一番嬉しかったのは、セイラ・マスのことを『セイラさん』ってさん付けで呼ぶんですよ(笑)。『ああ、やっぱりセイラ“さん”なんだ……』と思って、妙に感動しちゃって(笑)」

−− 嬉しかったんですか。

本広 「僕らは小説版とか読んでて、あれだとちょっとエッチだったりするじゃないですか。だから憧れの女性像の1つでもあったわけで……。それをさん付けした富野さんを見て、『ああ普通の人だ』って(笑)」

−− こういう話だとほんと喋らないですよね、渡辺監督って。

渡辺 「いや、まあ……ガンダムは見たよ」

−− ていうか、つくってるじゃないですか。

渡辺 「まあね」

−− では、ここから雑誌(ニュータイプ)用の質問なんですが、ちょっとお答えして頂けますか? まず、一番最初に見たアニメ、映画は何ですか?

渡辺 「何も覚えてないですね(笑)」

本広 「自然に見てるもんだからなあ……」

−− じゃあ幼少時、記憶に残ってるものは?

本広 「『キングコング』のジェシカ・ラングの白い肌。初めて見た洋画ですね。興奮しましたもん(笑)」

渡辺 「何歳だったんですか?」

本広 「さぁ……いやでも、すっごいキレイでしたもん。大人になって見ても、ああ、子供のころは正しかったんだって。ほんとキレイですよ。あのくさい芝居がまたいいんですよ」

渡辺 「そもそもくさい芝居が好きなんですか?(笑)」

本広 「なんですかねぇ? 印象に残ってるんですよ」

渡辺 「演劇とか好きですか?」

本広 「演劇も大好きです、もう」

渡辺 「なるほどね……僕、演劇全然ダメなんですよ(笑)。照れくさくて、まったく見れないんですよ」

本広 「ああ、そういう人いますよね」

渡辺 「『喋ってます!』というのがダメで。そこらへんが違うんでしょうね」

本広 「演出に出ますね」

渡辺 「俺のはボソボソ喋ってるし(笑)。本広さんのは滑舌いいじゃないですか」

本広 「もう、聞こえなかったら録音部がアフレコしてますから(笑)」

−− 渡辺監督の記憶に残ってる作品は?

渡辺 「うーん……何を見てたんだろう? 俺は。そういえば余談ですけど、大隅正秋さんって初代『ルパン』の監督の方で、『ルパン』と前後して『ムーミン』の監督もしてらした方なんですけど、雑誌の対談で喋ったら、スナフキンというキャラクターは原作になくて僕がつくった、という話をされてて……。それを聞いてちょっと驚いたのは、僕、『ムーミン』ではスナフキンだけが好きだったんですね」

本広 「おお〜」

渡辺 「『ルパン』とスナフキンが好きだったから、ああ、ひょっとして俺が好きなものはみんなこの人がつくってたものなのでは、とか思ったりして」

−− 本当、アウトロー好きですねぇ。

本広 「小さいころからですか?」

渡辺 「小さいころからですね。それはあとから気がついたんですけど」

本広 「例えば、文化祭とかでみんなで何かやろうぜ!っていうときの中心人物ではなかったんですか?」

渡辺 「ないですねえ。映画監督には向いてないんじゃないか? と思うんですけど」

本広 「ああ……真逆ですね。僕、文化祭の実行委員長で(笑)。『イデオン立てるぞー!』って、校舎よりデカいイデオン立てたことがあるんですよ(笑)」

渡辺 「逆ですねぇ……でもそれは映画監督向きじゃないですか。映画監督ってそうですよね、『みんなついてこい!』って感じじゃないですか」

本広 「でも、最近それが恥ずかしいんですよ(笑)。『ワシがワシが!』って言ってられなくなってきちゃって」

渡辺 「僕もあんまり得意じゃなくて、いまのつくりかたも、こう、そっとスタッフの席に近づいていってボソボソ話す、みたいな(笑)」

本広 「裏へ裏へと(笑)」

渡辺 「『やるぞー!』じゃなくて、『こうしたいんだけど……』みたいな。あんまり旗は立てずに。あんまり良くないんですけどね。本当は本広さんみたいな人のほうが向いてますよ。いや本当に」

本広 「いや、そうかなぁ」

−− では、話を戻して……初めて劇場に行ったのは?

本広 「僕は『男はつらいよ』ですね。おかんと行ったんですけど、同時上映が『ドリフターズの電撃なんとか』で(笑)<編注・おそらく『ドリフターズですよ!全員突撃』'69 だと思われる……詳細不明>」

渡辺 「すごいですねぇ」

本広 「いかりやさんにそれ言ったら覚えてなかった(笑)。『そんなのやったっけ?』って。それが映画館で最初に見た映画ですかね。小学校3年生ぐらいだったと思います。タダ券をもらってそれでいったんですよ」

渡辺 「僕も実家の周りに映画館がなくて、あんまり子供のころは行かなかったんですよね。隣町に行かないとなかったから……俺は確か『トラック野郎』かな?」

本広 「ああ、僕も好きですね」

渡辺 「『トラック野郎』は好きだった気がする。地方の映画館って、ムチャクチャな2本立てするじゃないですか」

本広 「3か月遅れぐらいだったりしますもんね」

渡辺 「その頃ってアニメと実写がメチャクチャだったような気がしますよね。そうだ、思い出したんだけど、『トラック野郎』と『宇宙戦艦ヤマト』を一緒にやってたんですよ。2本立てで、僕は『トラック野郎』目当てだったんですけど(笑)。で、『トラック野郎』のほうは今で言うソープランドのシーンとかあって、そんなのと一緒にしていいのか?って、いまにして思うんですけど(笑)。あと、『銀河鉄道999』と『リトル・ロマンス』の2本立てで見た記憶もありますね。これは『999』を見に行ったのかな? そうしたら『リトル・ロマンス』がついてきて、もったいないから見るじゃないですか」

本広 「ああ、同時期ですねぇ」

渡辺 「それで、こっちも意外とおもしろいなと思って。まあ、当時はジョージ・ロイ・ヒルなんて知らないけど。ひょっとしたらそういう地方のいい加減な2本立てというのがあって、それでアニメも実写も一緒くたに見るようになったのじゃないかと、いま急に思いました(笑)。地方のひどい2本立てのおかげかも」

本広 「本当、アニメブームに乗ってないんですねぇ。僕なんかカメラ持ってスクリーン写してましたよ(笑)。カセットで録ったりとか(笑)」

−− 渡辺監督はそのへんは?

渡辺 「『ガンダム』は見たけど。そういえば『ガンダム』もなんか変なのと一緒だったと思うよ。適当なんだよね、地方の映画館のオヤジなんて(笑)。こういう作品だからこれと一緒に、なんて一切考えてないから。でも、それがかえって良いのではないかと。やっぱりもっとデタラメな2本立てをやるべきじゃないかと。それで意外な作品に出会えるかも知れないし」

本広 「そうですよねぇ」

渡辺 「TVはあんまり見てなかったかもなぁ」

本広 「うちも夜10時以降はTV見せてくれなかった、確か」

渡辺 「うちもそんなもんでしたよ。というか、寝ちゃってましたね」

本広 「土曜日の夜10時ぐらいから『キューティハニー』と『ミクロイドS』をやってて、『ミクロイドS』が怖くて怖くて……でも毎週見てましたね。いま思えば、なんであんなに怖かったんだろうっていう。あと、そのときに見てた『熱中時代』は記憶に残ってますねぇ。TV見て泣いたのはあれが初めてかも知れない」

渡辺 「そういう体験はないなぁ。あ、でも、だれも信じてくれない『天才バカボン』。あの最初のやつは好きだったんですよ。雑誌のアンケートで、影響を受けた作品1本書いて下さいっていうから『天才バカボン』って書いたら、みんなギャグだと思って(笑)」

本広 「キャラクターつくりすぎだよって? 本当に好きだったんですか?」

渡辺 「本当に好きだったんですよ。いま見るとシュールだよね、すごく。バカボンのパパがね、退屈だっていうシーンがあって、寝ころんでさ、足の指でこう包丁を挟んで、クルクルクルクルッと放り投げて、落ちてきたのをスパッとよけるっていうのがあって……(笑)。で、またクルクルクルクルッてやって、今度は足の指でパッてつかんだりとかしてて。昔はそういうのも平気で放送してたんですよ」

−− いまはナイフ持ってるだけで文句言われますからね。

渡辺 「そうしたら『バカボン』なんて放送できないよ。でも、それが妙に好きだった記憶がありますね。あと、習字をしてて、どんどん紙をはみ出しちゃって、家の周りを一周したりとか、そういうのが好きだったんだけど……どうビバップと結びつくんだっていう。なんの関係もないじゃねーかよ、みたいな(笑)」

−− いや、クールなんですよ、両方とも。

渡辺 「クールかなぁ? こじつけのよう気もするが(笑)」

−− 「忘れようとしても思い出せない」っていうのはすごいセリフですよね。

渡辺 「『そのウソホント』っていうのも僕は好きでしたね」

−− 本広監督は? そういう影響を受けた作品は。

本広 「そうですねぇ……」

渡辺 「でも、影響を受けたかどうかって、本人はわからなかったりしますよね。自覚的につくってるわけじゃないし、そう言われればそうかもっていうときもあるし」

本広 「そうですねぇ……」

−− これがDVDで出るとつい買っちゃう、とかは?

本広 「たくさんありすぎてわからない(笑)」

−− すごい買ってるっていう噂聞きますよ。お金あっていいなぁって。

本広 「いや、金ないんですけど(笑)。欲しいものは手に入れるっていう。だって、いままでビデオで集めてたのが全部無意味じゃないですか。ねぇ? なんだったんだあのダビングの時間は?って」

渡辺 「ああいうソフトって見直します?」

本広 「僕は見ますね」

渡辺 「あ、見るんだ」

本広 「『やっぱ子供のころに見てたものはいま見てもいいねぇ』なんて言いながら……もう、普通の人(笑)」

渡辺 「ボックスとかなんにも持ってない(笑)。DVDプレーヤーすら持ってないんですよ(笑)。それに見るヒマもないし」

−− ソフト買ったりしないんですか?

渡辺 「あんまり買わないですねぇ。LDも持ってないし……映画は基本的に映画館に行って観るのが好きなんで……」

−− 一番最初につくった作品は?

本広 「僕は『イデオン』」

−− えっ?

本広 「文化祭でつくったやつ。いまだに伝説になってます」

渡辺 「さっきも言ってましたけど……本当に校舎よりデカイんですか? どうやってつくったんですか?」

本広 「全部パーツでつくって組み上げようとしたけど、立たないんですよ。しょうがないから工務店のオッチャンに出てきてもらって、1万円で中に竹通してもらって、ダーン!ってワイヤーで起こしていくんですけど」

渡辺 「クレーンかなんかで?」

本広 「クレーンで。10数メートルとかですかね。枠は段ボールで色付けて、中は竹で組み合わせて。設計図引いて」

渡辺 「昔からこう、大風呂敷なものが好きなんですね。映像もそうですよね。ドドーンと広げようとしますよね」

本広 「もう、大きいほうが。とりあえずいっとこかー! みたいな(笑)」

渡辺 「そういう資質って、じゃあ学生のころから変わってないですね」

本広 「変わんないですねぇ。自分は性格地味だと思ってたんですけど、思い出してみると確かに全部そうだな、と思って」

渡辺 「そういうのはきっと変わらないと思いますよ。僕のつくってるようなせせこましい感じじゃなくて……(笑)」

本広 「いやいや、世界が広いじゃないですか」

渡辺 「4人ぐらいでダラダラしてるとか、そういうものじゃなくて、本広さんのはバーン!としてて」

本広 「分かりやすーい!っていう」

−− 渡辺監督は音楽活動してたと聞きますが。

渡辺 「音楽はつくったというほどのものではないなぁ。映画好きだったんですけど、自主映画ってなぜかいっさいやる気がしなくて。やりました?」

本広 「僕は自分から監督はやってないですね。手伝いくらい」

渡辺 「なぜかこう、若者特有の根拠のない自信があってですね、自分は当然35ミリの商業映画を録るものだと思ってたんで。自主映画を撮りたいと思ったことがないんだよね。ひどい思い上がりなんですけどね、いまにして思うと。だから……初めてつくった作品は、プロとして演出としてつくった作品」

−− なるほど。その辺りも、お互いの現在の感じと共通しているようで面白いですね。それでは、そろそろ時間ですので……今日は長々とありがとうございました。

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